人口減少とマイカー普及の波を受け、全国の地方鉄道が存続の岐路に立たされている。利用者の落ち込みに歯止めがかからず、鉄道会社は赤字路線の維持に限界を訴える。一方で、通学の高校生や高齢者にとって鉄道は代えのきかない「地域の足」だ。国は昨年、存廃を話し合う協議の枠組みを整えたが、結論を出せない自治体は多い。人口減少時代の公共交通のあり方が、いま各地で問われている。
「1キロあたり1日1人」区間も
国土交通省によると、輸送密度(1キロあたりの1日平均利用者数)が1千人未満のJRの路線区間は、全国で60を超える。中には輸送密度が2桁台にとどまり、「1キロあたり1日わずか数十人」という区間も少なくない。国鉄が民営化された1987年当時、輸送密度4千人未満は廃止・バス転換の目安とされたが、その水準を大きく下回る区間が今なお各地に残る。
背景にあるのは、地方における急速な人口減少と少子高齢化だ。かつて沿線の主要な担い手だった高校生の数は年々減り、通学定期の収入は細っている。加えて、道路網の整備とマイカーの普及で、日常の移動は自動車が中心となった。ある地方鉄道の関係者は「雪の日も高齢者を運ぶ使命感で走らせているが、1本の列車に乗客が数人という日も珍しくない」と打ち明ける。
鉄道会社「単独維持は限界」
長引く赤字は、鉄道会社の経営を圧迫している。新型コロナウイルス禍で定期外の利用が激減し、経営環境はさらに厳しさを増した。設備の老朽化も深刻で、橋りょうやトンネル、レールの更新には多額の費用がかかる。豪雨や地震で被災した路線の中には、復旧費が数十億円に上るとの試算から、復旧を断念せざるを得ないケースも出ている。
大手鉄道会社は近年、赤字区間ごとの収支を相次いで公表し始めた。「路線全体の黒字で赤字ローカル線を支える構図は、もはや持続可能ではない」との危機感が背景にある。ある幹部は「鉄道という手段を守ることが目的化してはならない。地域にとって本当に必要な交通は何かを、沿線と一緒に考える段階に来ている」と語る。
国、協議の枠組みを整備
こうした状況を受け、国は自治体と鉄道会社が路線の将来を話し合うための協議会制度を設けた。輸送密度が低い区間について、国が主体的に関与し、鉄道として存続させるか、バス高速輸送システム(BRT)や路線バスに転換するかを議論する仕組みだ。国は存続・転換いずれの場合も、財政面で支援する方針を示している。
ただ、協議が動き出しても、結論を出すのは容易ではない。鉄道の存続を求める沿線自治体と、単独維持は難しいとする鉄道会社の間で、費用負担のあり方をめぐる隔たりは大きい。複数の県にまたがる路線では、県ごとに温度差が生じ、調整はいっそう難航する。「議論のテーブルに着くこと自体が、地域にとっては存廃の宣告のように受け止められてしまう」。ある首長はそう漏らす。
「学校に通えなくなる」 沿線の不安
沿線住民の思いは切実だ。とりわけ影響が大きいのは、車を運転できない高校生と高齢者である。「鉄道がなくなれば、隣町の高校まで通えなくなる」。そう話すのは、毎朝ローカル線で通学する女子高校生だ。バスに転換されても、本数や運行時間が通学に合うとは限らない。過疎地では、タクシーの担い手不足も深刻さを増している。
地域経済への影響を懸念する声もある。駅は単なる乗降の場ではなく、まちの中心としての役割を担ってきた。観光客を呼び込む玄関口でもあり、廃線は地域の求心力の低下につながりかねない。「鉄道が走っているという事実そのものが、まちの誇りであり、移り住む若い世代への魅力にもなっている」。沿線でまちづくりに取り組む男性はそう強調する。
「守る」から「つくり直す」へ
専門家は、鉄道を残すか否かの二者択一を超えた発想が必要だと指摘する。需要に応じて経路を変える乗り合い型のオンデマンド交通、自動運転バスの導入、貨客混載など、新しい技術やサービスを組み合わせ、地域の移動を「つくり直す」取り組みが各地で始まっている。上下分離方式で自治体が線路や施設を保有し、運行を鉄道会社が担う形で存続にこぎ着けた路線もある。
「大切なのは、鉄道という手段を守ることではなく、住民が安心して移動できる状態を守ることだ」と交通政策に詳しい研究者は話す。財源や担い手が限られる中で、どの地域に、どのような交通を、誰が支えて残すのか。答えは一つではない。人口減少時代の地域交通をめぐる議論は、日本の各地でこれからも続く。
(サクラ新報)